消滅時効の援用を失敗するパターン
1 債務の消滅時効に失敗するパターンの概要
貸金業者等から借り入れた金銭を返済する債務については、原則として期限の利益を喪失した日から5年間で消滅時効が完成します。
もっとも、実務においては、消滅時効が完成したと思っていても、時効の援用がうまくいかなかったということもあります。
代表的なものとして、消滅時効が完成していると思っていたら実は完成していなかったケース、時効の中断(更新)事由が存在していたケース、訴訟が提起されていて判決が確定していたケースが挙げられます。
以下、それぞれについて説明します。
2 消滅時効が完成していると思っていたら実は完成していなかった
消滅時効についてご相談される方の中には、最後の返済の日(正確には期限の利益を喪失した日)がいつごろであるかについて、すなわち消滅時効の起算点について、記憶が曖昧であるという方もいらっしゃいます。
滞納等が始まったのが何年も前のことであると、記憶が曖昧になるのも無理はありません。
そして、消滅時効の起算点が曖昧なまま、実際には消滅時効が完成していないタイミングで貸金業者等に対して時効援用の意思表示をしたり、取引履歴の提供を求めたりしてしまうと、貸金業者等が消滅時効を中断(更新)するために訴訟の提起等をしてしまうということが考えられます。
このような事態に陥ることを防ぐため、記憶が曖昧な場合には、明らかに消滅時効が完成したといえる時期まで待つという方法も考えられます。
3 時効の中断(更新)事由が存在していた
返済の滞納が始まり、初めに期限の利益を喪失した日から5年以上が経過していたとしても、途中で時効の中断(更新)がなされてしまっているということもあります。
具体的には、貸金業者等から連絡を受けて、返済の意思があることを伝えてしまったり、少しでもいいから返済してほしいと言われて少額の支払いをしてしまったというものが挙げられます。
これらの行為をしてしまうと、行為をした日からさらに5年が経過をしないと消滅時効が完成しません。
また、このような行為は、債務者の方のご記憶にもあまり残っていないことも多いです。
返済を長期間滞納してしまうような状況にいらっしゃる方は、お金の工面に追われていたり、精神的に追い詰められていて判断能力が低下していることもあるので、返済の意思があることを伝えたり、少額の返済のための支払いをしたことを覚えてないということがあります。
4 訴訟が提起されていて判決が確定していた
期限の利益を喪失した日から5年以上経過していても、訴訟を提起されてしまい、債権者側の勝訴判決が確定してしまうと、消滅時効の期間は10年になってしまいます。
滞納をしてしまった後、引っ越しを繰り返しているなどの事情によって、訴訟が提起されたことを知らない方もいらっしゃいます。
そうすると、債務者の方が出頭も反論もしないまま訴訟手続きが進み、債権者側の勝訴判決が下ってしまうということがあります。
判決が確定すると、新たに時効の進行が始まることになるので、初めに期限の利益を喪失した日から5年以上経過していても消滅時効の援用ができなくなることがあります。